スウェーデンのノーズワークインストラクターコースを日本で!

文:藤田りか子

2023年10月にノーズワークスポーツクラブ(以下JNWSC)は、スウェーデンのノーズワーククラブのインストラクター教育委員を務めるピッレ・アンデションさんによるJNWSC公認ノーズワークインストラクター教育を開催した。スウェーデンのルールに基づいたノーズワーク・インストラクター養成コースとして、これはなんと日本初の試み!日本にいながらにしてスウェーデン流の教育を受けられるというまたとない機会となった。

参加者はウェビナーを通してルールを勉強、そして11月にはピッレさんと対面にて4日間の合宿研修。ここでみっちりと実践面の手ほどき。3月に開催された実技テストでは11人の参加者が見事合格。スウェーデンのドッグトレーニング哲学を備えたノーズワークインストラクターが誕生した。のみならず彼らは今後におい認識テストの公認ジャッジとしても活躍する。

ノーズワークを習いたいという人の数は以前にも増して急上昇している。このような状況を鑑みてJNWSCではピッレ・アンデションさんによるさらなるインストラクター教育を2024年今秋に実施することを決定した。

さてJNWSC公認のノーズワークインストラクター教育に興味がある人、スウェーデンのドッグスポーツ哲学に興味がある人、ピッレさんのインストラクターコースがどんなものであったのか、知りたいはず!そこで、今回コースに参加した方々から感想を伺ってみた。

そしてこれを読んでもし「ノーズワークインストラクターになりたい!」と思った人は、近々発表される募集要項(7月頃の予定)まで待たれたい。

スウェーデン基準のインストラクターコースでしたが、何か特徴といったようなものを感じましたか?

  • 座学が短く実践が多いこと。講師に正解を教えてもらったり何かを暗記するのではなく、毎回異なるメンバーで成り立つグループで課題に向き合い結果をディスカッションしたり。そこでは自ら動いて考えたりすることも求められました。このようなやり方はスウェーデンの小学校から大学でも同様に行われている教育のあり方だと聞いて驚きましたし、新鮮だと思いました。長時間であっても全く眠くなることもなく、日本の学校と大違いだなとも思いました(笑)。また、宿題も何に取り組むかを自分で選ぶことができるのですね。でも分からないことがあった際はピッレさんはいつでも質問にウェルカムしてくださったので、安心して挑戦することができました。質問に対する回答も細やかでありがたかったです。
  • インストラクターとしてのモラル、ポジティブな発言と考え方、振る舞いなどについてもお話をしてくださり、とにかくあらゆる面において細かい指導を得ることができました。さらに我々インストラクターは犬ではなく人を教えているということ、そこでは人を見て人の行動を強化していくために フィードバックを行う、を最初に繰り返し徹底して叩き込まれたことがよかったです。
  • 今回のコースすべて(実践的なレッスン方法や座学の内容すべて)に言えたことなのですが、いつ何時もどんな場面でも、どんな質問の答えも犬の安全や犬の気持ちに寄り添った内容でした。これは動物福祉先進国の考えに触れることにもつながり、よりノーズワークの大切さを実感しました。
  • 各自レッスンプランを作成した際、ピッレさんは「皆がそれを見られるように公表すること」を求めました。この点、日本だったら全員分を皆が見られるようにはしないと思いました。しかし今回他の方のプランを見ることにより、知識の引き出しが増えました。そしてお互い作成したものを見合うこと はとてもよかったと感じています。
  • 最後の実践テストでも同様で、別日に他のグループのプレゼンを見ることにより、何を生徒に伝えなければいけないのか、何を学んでもらうべきなのか、を客観的に見ることができ理解が深まりました。
  • 終始レッスンの際はインストラクターとしてポジティブな話し方をすること。 何かを指摘して訂正することで上達してもらうのではなく、良かった部分を伝え次のステップでチャレンジをする、を伝えることでより楽しみながら上達してもらう、という点もスウェーデンらしいと思いました。

コースではスウェーデンならではの「グループレッスン」という概念をピッレさんが導入してくれました。日本では個人レッスンが多いと思いますが、みなさんは今回どう思われましたか?

  • グループレッスンだと犬が自然に休憩時間を取れるのがいいと思いました。また他の人のを見て学ぶことができるという利点がありますね。自分自身も今回グループレッスンに生徒として参加したわけですが、他の人のやっているのを見ることで刺激になったり勉強になったり。
  • グループレッスンはノーズワークを教えるのに、人にとっても犬にとっても学習しやすいと思いました。余裕のあるときは、フィーカタイムも作りたいです!
  • 他の参加者がやっていることを見て学びや気付きをえることができるので個人レッスンよりも得るものが多いのだと感じました。
  • 個人レッスンの場合、犬の集中力は約30分程度。グループレッスンだと、 人も犬も休憩しながら切り替えができるので、どちらにもメリットがあるということが良く理解できました。また、使用する会場が狭いことや他人や他犬に吠える犬がいる場合のグ ループレッスンの解決策をピッレさんから教えていただけたので、それを取り入れ実際に自分でもグループレッスンを増やしました。すると参加者の意欲が増し、面白いという感想をあちこちでもらえて嬉しかったです。
  • 自分の番が来る前に、他の人のやることを見て自分の動作をイメージすることができました。そして自分が行った後にインストラクターからアドバイスをもらい、他の組が行う様子を見て復習ができた点もよかったです。 それから犬も他の子がやる様子を見ながら、サーチを行うモチベーションを上げる子もいたのが興味深かったですね。他の人も一緒に同じことを楽しんだり目標にしたりすることによって、レッスンを継続するモチベーションが上がる、飼い主同士の交流が生まれる点もよかったです。

自分で考えるということについても、このコースで学ばれたかと思います。これについてはどう思いましたか?何が難しかった?何がよかった?

  • 対面レッスンのとき課題に取り組む際に、グループで知恵を出し合ったり協力したりして、まずは実践し失敗したり検証をすること自体が大きな経験となりました。
  • グループを作り自分達で考えながらワークをしてそれを発表するという形式。みんなでディスカッションしながらやることによって、言われた通りにやるより格段に身についたと思います。
  • 自分で考えた結果とピッレ先生の回答が違っても、その理由を丁寧に説明してもらえたりダメ出しをされたりすることもないので失敗を恐れることなく取り組めました。難しかったところは特にないですね。覚えきれないくらい多くの回答をいただいたのでそれを忘れないようにしておくのが難しいかも!

ピッレさんを講師としたことで、得られたものはなんですか?

  • すべてにおいて冷静であるという姿。そのときに答えなければならないことを感情抜きに、伝えるべきことを伝えるという態度でした。明確に時間内に的確に教えていましたね。それがある人は犬にもちゃんと教えることができる、トレーナーとしてのいい部分を見ました。
  • アニマルウェルフェアの考え方、周囲の人(生徒)への丁寧な対応の仕方、もちろん知識と経験も豊富で疑問がすぐに解消されることがありがたかったです。
  • ピッレ先生の威厳。目を見て話し何にでも答えてくれる姿勢。とても見習いたいと思いました。
  • 犬や人に対する細かい配慮。初心者の生徒さんにはいいところを見つけて褒めること、ダメだったところは「次はこうしましょう」と提案することで、やる気をくじかないようにする大切さを学びました。褒めることは意識してやっていても、ダメなところも指摘していた自分を反省しました。実際自分もコースの中のロールプレイングで不安に感じながらやっても、いいところばかりを指摘されることで楽しくなり、またやりたい!という気持ちになれたので、不安な中で参加している初心者の生徒さんも、きっとこんな気持ちなのだろうなと思えました。
  • インストラクターとはこうあるべきを教えてもらい、身をもって実践してもらえたので本当に分かりやすかったです。宿題へのレスポンスの速さ、丁寧さ、細やかさもありがたかったです。言葉は通じないけれど瞬時に察する能力の高さと観察力が長けていることが伝わってきて、非常に助けてもらえました。明確に要点を何度も言ってくれること、大事なポイントを丁寧 に押さえて教えてくれるところがよかったです。
  • 日本の教育のように横並びを求めたり、暗黙に正解を押し付けようなことがなく、楽しく学べたことがとても良かったです。
  • 筆記テストの出題方法や解答方法が日本では経験したことがなく、大変考えさせられる内容でした。
  • ハンデのある犬やシニア犬をめぐっての動物福祉に関する考え方、フィーカタイムの重要性、常にポジティブな指導、犬種による個性を尊重することの大切さ、そして犬の立場に立って考える徹底ぶりですね。
  • ピッレさんの作り出す空気!3日と4日の2回に分かれた研修期間でしたが、このような教育を行なってくれる人は、他のノーズワークの先生にはいないかもしれません。犬も人も泊まりで行うと集中できるので学べることが多かったです。合宿は必要なものだと思いました。それからピッレさんを見て、ジャッジとしての立ち位置、競技会をどう見るか、設定や見抜き方などもすごく学ぶことができました。

ピッレさんのインストラクター教育を受けた後、自分のティーチング(授業)で何か変わったことはありますか?

  • 今まで自己流でやってきた教え方でも上手くいってはいましたが、今回ピッレさんから教わったやり方は、犬はもちろん初心者の飼い主さんもやりやすい方法でした。宿題の課題の際に私が教えた初心者の飼い主さんもどんどん上達していきました。明確なカリキュラムができたのでどんな飼い主さんにも教えやすくなりました。そしていいところを見つけて褒めることに意識を向けられるようになったのもすごく大きな収穫だったと思います。
  • ペアリングのメリットを改めて認識できました。特にモチベーションの低い犬の意欲や行動が劇的に変わりましたね。さまざまな教え方を学んだことで、私のインストラクターとしての引き出しが増えたこと、ステップアップの段階を細かく行う、というテクニックも学べたので、犬も飼い主さんも成功体験が増え、おかげで伸び悩んだり挫折することが減りました。
  • 礼儀正しい言葉が使えるようになり、ちゃんと褒め言葉を先に言えるようになりました。

インストラクターコースの中で何が一番印象に残りましたか?

  • ピッレさんの教え方がわかりやすくてよかったです。あの時間内にこれだけのことをまとめてスムーズに教えることができたのはすごいですね。セミナーの組み立て方は本当に素晴らしかったです。
  • 決してネガティブなフィードバックはしないということ。授業においてプランを作ったら時間厳守すること、質問時間を設けること、 細かくプランを立てること、そしてグループレッスンの重要性ですね。それからインストラクターとしてのモラルを学べたことも印象に残りました。
  • ロールプレイングで生徒役、インストラクター役をやり、それぞれのフィードバックにネガティブワードを言わずにポジティブワードだけにするのが、最初は大変でしたけどだんだん楽しくなってきました。

今回のコースでノーズワークについてどんなメリットがあると感じましたか?

  • 犬にとって嗅覚とは?ということを理解できるようになる、人が犬を読めるようになる、犬の自主性を引き出すためのハンドリングや報酬に何を使うべきかを習得できる、子供から老人まで、子犬からシニア犬まで、初心者から経験者までそれぞれのペースで楽しめる、トレーニング未経験やトレーニングが苦手な飼い主でもトレーニングの楽しさを感じることができる、犬を褒めるタイミングを習得することができる、ですね。
  • きちんと系統立てて犬に教えることで、犬が失敗せずに楽しく参加できることです。それからこのスポーツそのものがアニマルウェルフェアに貢献していること。
  • ノーズワークは奥が深く、様々な環境や状況でできるようにステップアップしていくために様々なトレーニングがあります。そのため日々やることが増えていきます。そういう日々を送ることで犬たちを退屈させず、犬らしい欲求を満たしてあげることができる。また、飼い主さんもノーズワークに夢中になることで、困りごとにフォーカスすることが減ってくると思います。
  • 集中力が増す、飼い主と犬の関係がより良いものになる、犬の脳トレになる 、色々な環境で行うことで、社会化を促す 、犬が自立的に考えることができる、考えた結果、目標に達することができて自信につながる、飼い主に褒められる回数が多くなるので、喜びが増える、犬が頑張る様子を見て、飼い主も癒されたり喜びを感じる 、犬と飼い主が同じ目標に挑み、達成した時に喜びを犬と分かち合える 、です!

今後どのようにここで得た知識を活用したいと思いますか?

  • 初心者の飼い主さんにどう教えるべきか、基本の路線をここで学べたのでどんどん自身のノーズワークコースを勧めたり体験会を開いたりして間口を広げ、経験者には練習会を開催していきたいと思います。また、初心者のお客様へのフィードバックの仕方も今後のレッスンに活かしていきます。
  • グループレッスンへの苦手意識がなくなったので、 グループレッスンを積極的に増やしていきたいです。そして学んだことを歪めることなく多くの人にシェアすること、ノーズワークを通じてトレーニングのする面白さも伝えていきたいです。矯正なしに、犬にも人にも教えていけるトレーニング方法があるということも知ってもらえたらと思いますね。
  • ノーズワークが飼い主さんと犬にどれほど良い影響を与えるのか、とてもよく理解できたので、多くの方に知って欲しいです。人間の子供の習い事のように、これからは犬も家族の一員として、子供のような存在として定期的に飼い主さんと新しいことをして楽しむ時間があってもいいと思います。

以上を読んでもし「自分もノーズワークインストラクターになりたい!」と思った人は、近々発表される募集要項(7月頃の予定)まで乞うご期待!